鈴木惇選手の引退

人間の認知や記憶ってのは物語に簡単に誘導されるものだとじぶんに言い聞かせつつ、それでも、それを確かに見た、という話。

 

それは昼開催で屋根のない専スタつまり三ツ沢での試合で、彼がベンチメンバーだったという薄らぼんやりした記憶から、たぶんこの試合での出来事。
2008 J2リーグ ディビジョン2  第14節

データを見ても試合のことは何も思い出せない・・・ま、酷い試合ですな。


このblogははてなに来る前からやっていて、それなら当時この試合についてなにか書いてるかも、と思いログを見てみたら、その頃の俺はクラブというか当時の社長への絶望のあまり試合に全然興味が持てず、やさぐれたエントリを連投している真っ最中・・・
このエントリやな。
「んー・・・・うーん・・・・いや参ったね」

いま読むとだいぶトチ狂ってる。クラブもやばいが俺もやばい。



ところがですね、この、試合どころではない時期の記憶が吹っ飛ぶくらいの超絶クソ試合という最悪シチュエーションにも関わらず、この日のあるシーンを鮮明に覚えているのですよ。ポジティブな印象とともに。

 

試合前、枠から平気で4メートル5メートルこっ外れたシュートが飛び交うシュー練が終わり、スタメンが引き上げていく。こりゃダメだ、クラブもチームもどっちも同じ程度にメチャメチャだと呆れてると、目の前にベンチメンバーがわちゃわちゃしながら移動してきた。この酷いチームのベンチに座ってるのはさぞ辛かろうと眺めてたら、場違いにニコニコ笑ってる若い奴がピッチサイドの方に左脚を振った。緩やかに、でもスムーズに振られた脚からボールが放たれる。ところが、このボールが異様にゆっくりと中空を移動していく。ファーストガンダムのハロが小春日和に散歩しているかのように、緩慢に、だけど確実にどこかを目掛けてゆっくりゆっくり。
なんだなんだとボールを目で追う。ふわふわと漂ったボールは、10メートルくらい離れた同じくベンチメンバーだった選手の俯いた首の後ろあたりに「ふわり」と着地した。

天才の悪戯。

あれが鈴木惇・・・

唖然とした。


上にリンク貼ったJのデータサイトによると、結局この荒れた試合に彼は出場していない。
それでも、あの左脚にはドン底アビスパに一筋射し込む光を見つけたと思わされた。過分に捻じ曲がった認知のせいであっても。

彼はまだ19歳で、五月の風の中、世界はやけに広かったのだ。


鈴木惇が引退した。惇、ありがとう。

お疲れさまでした。