2015 J1昇格プレーオフ決勝 福岡 1-1 C大阪

みなさん、もう正気に戻りましたか。僕はようやく半分ほど現世に戻ってきました。ずっとふわふわしっぱなしでした。


元々は行く気じゃなかった。岐阜に行った時は、「今年はこれが最後だな-、勝ち試合を見れてよかったよかった」などと思っていたのだ。
だけど、プレーオフ。下位チームの、しかも勝ち点差15もある下位チームのホームを、言うに事欠いて中立地とか抜かすとは何ごとかボケ。こんな不合理不条理不公正がまかり通って、代理店だのJリーグだのの思い通りの結果が出たりしたら多分俺は憤死するな、などと考えているうちに、やっぱりこれは行って微力であってもデカい声を出さねばならんのではないかという結論になり、とうとう金曜の夕方に旅行会社の店頭に並んでいた。いざという時の声の大きさには自信がある。約束を破ることをカミさんには謝ったが、どう思っているかはわからない。
それにしてもプレーオフってな、あれである。この世知辛い時代に差し出された、残酷ショーの頂点のひとつであろう。そしてその背景に好き好んでなりに行くわけだ。それなりに覚悟も必要でしょうよ。一体どれくらい福岡のサポーターが集まるのだろう。あの広大な長居のサイドスタンドを埋めれるんだろうか・・・


行き

指定列車以外は乗れないというファンキーなチケットを買ったため、遅刻は絶対に許されない。山手線なんて、何がなにやらさっぱりわからん理由で急に止まったりするのだ。前夜、やべえやべえと思いつつ眠りについたら、目覚ましなしで5時前に目が覚めた。人間って凄い。
ウイークエンドシャッフルの録音を聴きながら新大阪へ。確か9時くらいについたと思う。さっさと天王寺まで行き、それからトイレ行ったりメシくったりして過ごす。
スタジアムには12時半くらいに着いた。


スタジアム

珍しく入場待ちの列に並び、開門を待つ。列で移動してるときに変な奴に割り込まれたが、同士討ちはやめとこう・・・と思い、楽勝で堪える。
入場後、適当によさ気な席を確保。下手したらトボけて相手さんの色かも、と思ってたゴールネットは真っ白だった。
長居は初めて来たが、陸上競技場ではかなり見やすい方だと思う・・・思うけど、なんぼ儲かるからって、やっぱり陸上競技場でサッカー興行やって、客に金払わせるのってどうかと思う。選択肢ないならともかく、隣に専用スタジアムあるんでしょ? 強欲というのか浅ましいというのか。


試合前

二時間もあったのに、試合までなにやってたかあんまり覚えてない。知り合いを見つけては挨拶する。Nさんに久々に会う。お子さんはもう六歳だって。いいのか連れて来て。この日はとにかく子連れの人が多かったが明日大丈夫なのか。Nさんは、10年ほど前に俺に向かって「あんたカラアゲやろ」などと言い放ったいい男だ。
キックオフ一時間前に集会。いい緊張感。
その後だったかその前だったか、社長がトラメガ取ってウルトラ棒付近で挨拶していた。J1福岡で博多に帰りましょう!みたいなこと言って締める。強気だなあとその時は思ったが、そういえば、Nさんも「上がったらもう落ちんよ」と当たり前の顔して言ってたなあ。
ふと気づくと、福岡側サイドスタンドがほぼ全て埋まっている。9000人入っていたそうだが、バックスタンド側は他チームのサポーターと、ホーム側に入れなかった奴らだろう。それでも、福岡な人が5000人前後はいたと思う。凄い。

そういえば日立台入れ替え戦のときは他チームのサポーターがかなり紛れ込んでたが、今回は広いだけあって、真ん中付近は福岡濃度が高かった。
この時は劇的な勝ち抜けをするんじゃないかと予想してたと思う。劇的ってことは、試合終盤までよろしくない展開が続くってことだ。それは心臓によくない。出来たら楽に勝ち抜いてほしい・・・・
ノブリュウのMCで福岡の選手紹介。アガる。


試合

ユニフォーム着た選手が出てくる。福岡はファーストユニフォームで、セレッソは白いセカンド。
セレッソは1-4-2-3-1、福岡は限りなく5バックに近い1-3-4-2-1。セレッソはサイドに2人タテに並ぶ形で、マイボール時はそれがサイドラインに平行に、両サイドとも広がる。福岡ボールのときはワイドに出たところに、前後ろ横から必ず二人以上で囲む。薄くなる真ん中は、とにかく気合いで戻って守る。付け焼き刃なはずのに、かなり厄介。やれば出来る選手を揃えてるということだ。だけど、「とにかく気合い」が90分持つとは思えなかった。
福岡は、とにかくファーストチョイスで蹴る。正直言ってつまらん・・・ 勝てるなら長いボール蹴るのもいいと思うけど、相手も山下が気合十分でウェリントンに食い下がってて、いいとこ五分五分である。ウェリントンがサイドに開いちゃうとか、もう一人のCBに近寄ってみるとかもあまりなかった。だけど、やっぱり種播いてる意味もあったんだろうね。
お互いいくつかチャンスはあったが、前半は0-0。
後半はちょっと引いた、らしい。ドリブルとパスでスペースを作られ、引きつけられた提のスペースを使われ、先制される。ドリブルしながら出来たスペース見つけて使うって、本当に難しい。やってのけた玉田と関口はさすがだと思う。

日本にプロのサッカー選手は1300人ほどいるそうだが、俺はその中で玉田が一番嫌いだ。11年前の玉田のあのナメくさった態度とコメントは絶対忘れん。
しかし、ボール持ってる局面でのあの足の運びは、奴が選ばれたプレイヤーであることを端的に示している。ああいうパーソナリティも、いいサッカー選手の一典型なのだと最近よく思う。なんというか、サッカー選手らしいサッカー選手なのだ。圧倒的な技術とスピードも相変わらず凄かった。もう35歳だそうだ。こうして対峙するのはもう最後だろう。

 

対向のスタンドがわっと沸く。おぉ、喜んどる喜んどる・・・・。
長いことこのチームに拘ってる人はみんなこういう意識を持っていると思う。つまり、福岡はいつだって強いチームの引き立て役で、ちょうどいい具合に悪役であり、前もって決まっている斬られ役なのだ、と。今回もJと代理店は露骨に正義の強豪様を贔屓しやがって、そんで今年もこれかい・・・。あと30分もすれば、いつも通りの結果が待ってる。いつも通り。
あとで聞いたら、このとき福岡のコアもだんまり状態になってしまっていたそうだ。萎れた気持ちでピッチを見やると、ウェリントンがピッチに突っ伏して動かない。それを目にした時、こりゃダメだなと思った。俺もなにかが喉を塞いで、出しに来たはずの声がつかえて出ない。弱い・・・弱いよ俺。弱いよアビスパ
しかし、しかしだ。よくよく考えたら、この2週間だけ頑張った連中に、一年間組織で頑張りをみっちり積み上げたチームがそう簡単に負けるわけない。ぐるっと頭巡らせてそう思うと、ちゃんと声が出るようになる。
その後も、サイドでなかなか勝てない。キツい時間帯だろうに、サイドの数的優位を維持し続けるセレッソ
だけど、そのサイドが綻ぶ時が来た。そして福岡はその一回の綻びをモノにした。まず福岡が4バックに変えたこと。勝ってるセレッソがなぜか若干パニックになり、チームとして不統一に陥ったこと。そして、やっぱりセレッソのサイドはそれまで頑張りすぎたのだと思う。フィニッシュすることになる北斗に、相手サイドバックはファーストディフェンスをかわされたあと、ついていけなかったのだ。
北斗が相手左サイドバックからボールを取って、中央の中原へ。カウンター・・・カウンター?なんで守ればいいチームがカウンター食らうんだ? 頭をハテナが埋め尽くすが、あっという間に左ワイドの金森に渡る。ダッシュして戻ってきた白いユニフォームが盛大に右サイドに寄せられる。サイドバックらしく追い越した亀川からクロス!ああ、真ん中合わない・・・でも、抜けた先にぽっかりスペースがある。カウンターとサイドの起点と、気力体力が尽きる瞬間が作ったスペース。あのスペースに飛び込んでくる選手がいるとすれば・・・・まだるっこしい時間が流れて、そして不意に視界にその北斗が現れた。北斗!どーん!! あとで映像を見ると、中原を抜けたボールを北斗が蹴るまで2秒弱なんだけど、この時はもっともっと長く感じた。5秒とか10秒とか。いやもっと。
逆サイドにレーザービームが刺さるのを見て、もうピッチは見てない。これも後で見た個人撮り動画でゴール後の選手たちをしっかり撮ってるものがあったけど、撮影者凄いよ。俺は転げまわってました。


帰り

M君Sさんを見つけて、一緒にスタジアムを出る。親と手をつないだ5歳くらいの女の子が、ナカムーラーホークートーと小さく口ずさんでいる。この強烈な体験は、何百人もしかしたら何千人単位の人にくっきりと埋め込まれた。これからの福岡は、それを不幸の種にはしてはいけない。
御堂筋線で新大阪まで真っ直ぐ出る。車内、あの前掛かりの4バックは間違いなく練習してたねえ、という話と、やべえ来年ダービーだね、あの鳥を釜茹でしてる段幕はまだあるんだろうかなどと心配になったりしてるうちに新大阪についてしまった。楽しい時はすぐに過ぎる。
ちょっと時間があったのでM君とベルギービールを啜る。明日は休暇を取ってるから京都へお礼参りへ行くなどと不思議なことを言うので話を聞いてみると、京都戦の時、縁切り神社に「J2との縁が切れますように」とお願いしてたのだという。縁切り神社と聞いて、はぁんコイツ女絡みか仕事で腐れ縁があるのだろうと即思った俺は明らかに汚れているが、それにしてもJ2在籍を腐れ縁とみなすとは・・・。サッカーは人を狂わす。今日、サッカーの、アビスパの洗礼を受けた人たちの前途が心配だ。
新幹線で当日帰るという福岡の選手たちを見送りたかったが、結局見逃す。おみやげクーポンで家族へのおみやげと、ビールを買い、東京へ。酔った頭で、北斗の右足からの白い軌道を何度も反芻する。