日立台

日立台で試合をする日がようやく来た。それにしてもまさか二部で試合をすることになるとは思わなかった。

そのくらい、入れ替え戦での柏は強かったのだ。

あの入れ替え戦はもう6シーズンも前の話で、当時のメンバーを見てみると、今もメンバーに入ってるのはユースケだけ。福岡だけじゃなく、柏も数多の激動をくぐりぬけ、たぶん今も居るのは小林だけなんじゃなかろうか。6シーズンというのは、サッカーマンにとっては、かように長い年月なんだ。今の福岡の選手に訊いても、日立台での柏戦だからって、別段こだわりなんかないに違いない。

だけど、俺にとっては違う。神戸戦は、試合後自分の膝が憤りのあまり冗談みたいに震えていた、それはそれで強烈な体験だったが、敗北を完全に納得させられた上であの鉄の構造物の上でどうしようもなく歌っていた柏戦は、それとは比べ物にならないくらいのなにものかだった。

試合後、あちらこちらから漏れているに違いないすすり泣きを聞くのが嫌だったから俺は歌い続けたし、それでもいつか歌は終わらなければならなくて、そして実際終わったときは、方々ですすり泣きの残骸ががらんがらんと音ならぬ音をたてながら仮組みのようなスタンド下の鉄骨にぶつかり、ぶつかり、地面に沈んでいった。

玉田と谷澤が中学生みたいにグランドコートの袖をパタパタと振りながら、珍しい動物でもみるかのようにこちらを一瞥し、目の前を通り過ぎていく。メンバーに入っていた山下が、柏のスタッフに頭を押されて、ぺこりと頭を下げる。俺はそれをぼんやりと眺めていたんだが、ぼんやりと眺めていた割にはあれから2000日くらいが過ぎてもその光景を忘れることが出来ない。ああ、まるで話にならずに負けてしまったのだと思ったし、その割にはあっさりと負けを認めて、最後は敵チームにすがすがしくエールを!みたいな気分にはまるでならない。実に嫌な敗北だった。

# 同じ年の山形の連中は本当にさっぱりとしたいい奴らだったと思う。

この黄色いチームははっきり嫌いだと、いつかこの場でくったりと打ちひしがれる黄色い連中を思い切り笑ってやりたいと、そのとき思ってしまったのだ。

(ちなみに、その思いは案外早く叶ってしまう。ほぼ一年後、バレーが6点取って柏を地獄へ突き落とした試合を俺は日立台のメインスタンドで爆笑しながら見ていた)

カシワとかタマダとか聞くと未だにムカムカするのは正直なところとても虚しいことだが、もうどうしようもないので毎度ムカムカするに任せることにしている。大体、仮に勝ったところでまだシーズンは3節が終わったにすぎん。こんなところで無闇に笑ったり泣いたりしててもしょうがなかろう。

とはわかっているが、それでもあのスタジアムでせせら笑ってやりたい気持ちは抑えられない。ああ、もう5時だ。

眠れない。