イカとクジラ

途方に暮れた人が好きだ。

前向きで建設的で実務的で元気な人がいないと何事も回っていかないのは重々承知しているけれど、そういう奴は正直嫌いだ。呆然としたまま、何を出来るでもなく、ただただ途方に暮れている人が好きだ。

イカとクジラ」という映画を見た。途方に暮れる人たちがいっぱい出てくる。もちろん、いい映画です。

変な終わり方をした映画の最後、エンドロールが二つ出てくる。なにげに眺めていると"dean wareham"に目が留まった。ディーン・ウェアハム。うーむ。

オマケのメイキングにディーンが出てきた。役柄とうってかわって妙に強気な主人公のジャリと話をしているシーン。「曲は何になったの?」みたいなことをヘラヘラと訊かれて、「hey youにした。他は高くてさ・・・」などと困ったようにいう。

galaxie500tugboatをリリースしてからもう20年が経った。galaxie500はディーン・ウェアハムが20年前にやってたバンドだ。

脱力してても激烈な音楽はやっぱり激烈なのだ!と俺らの目を覚まさせ、挙句来日公演直前にバンドを解散させてしまい、いろんな人たちにゆるやかに一泡食わせた全身弛緩音楽家たち。

俺が20歳くらいのころ、20年前の音楽なんつったら博物館に陳列されてるかのような、てんで自分に無関係な、歴史の向こう側にある伝統芸能の一ページみたいなもんだと感じてたけど、いつのまにかgalaxieも20年前のデキゴトになってしまったのだなあ。今の若い衆がgalaxieを聴いたら、やっぱりまるでピンとこないのだろうなと思う。

この映画で使われているhey youはピンクフロイドのオリジナルではなく、ディーンによるカバーだそうだ。

あれから20年たったディーンの声は、やっぱりひたすら途方に暮れている。