知人が死んだ。
最期まで行き来のあった一人がアパートに行ったら、亡くなってたんだそうだ。
そうかあ、亡くなったかあ・・・以上の言葉が思い浮かばない。唐突な印象を受けなかったのは、きっと、晩年の彼が死と暴力の影をいつも漂わせていたからだと思う。
本人が直接暴力をチラつかせることはなかった。むしろ仲間内では圧倒的に紳士で穏やかな男だった。それなのにある時期から、ひっそりとした不穏な気配で身をくるむようになっていた。
それなりに濃厚な付き合いをしていたころは本当に穏やかで優しい男だったはずなのに、いつごろからそうだっただろうと考えてみたがもうよくわからない。代わりに思い当たったのは、連絡を取らなくなったのが今のかみさんと付き合い始めたころだということだった。
短気で、徹底していて、スケベだった。
言葉をとても大事にする人だった。突き詰めて考える男だった。最期の日々、どんな言葉に辿りついていたんだろう。
深夜の電話、フーゾクの話になってこんなことを言ったんだ。
「フーゾクはどんなジャンルでも、どんなに短時間でも必ず会話があるんだよ」
「行為自体よりも、言葉のほうが大事なんだ」
俺は不誠実で、あなたはロクデナシだった。
随分あなたを失望させたと思う。あなたも負けないくらいに俺をガッカリさせた。そのガッカリの正体をあなたに伝えることは永遠に出来ない。
あなたの粘っこいベースを聴きながらタイコを叩くのが俺は好きだった。
さようなら、イノウエさん。安らかに休んでください。